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マンガ『ボクの駅弁漂流記』(前川つかさ)の紹介

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マンガ『大東京ビンボー生活マニュアル』(前川つかさ)の紹介 で触れた、前川つかさ氏の他のマンガについて書いていくことにする。

ただ、ファンとしては少々心苦しい。というのはどれもこれも版元品切れで、新刊で入手出来ないのである。ということは、古本が売れたところで著者の印税にはまったく繋がらないのだ。できれば復刊してほしいなあ、と思うのだが、僕が持っている本もどれも初版だったりする。つまり増刷されてないということなので、難しいんだろうな。

それはさておき。まずはボクの駅弁漂流記(1990年11月発行)から。先のエントリでふれたように、このマンガが『大東京ビンボー生活マニュアル』の雰囲気に一番近い。と書いたためか、アマゾンのアフィリエイトレポートを見てみると、既に何人か購入してくれた人がいるようだ。たぶんその人たちは気づいたと思うが、この本、アマゾンでも上巻しかデータが出てこない。なぜなら、下巻は刊行されていないからである。

だが実はこのマンガは、コミックス未収録分も含めて2007年に出たコンビニマンガで読むことができる。ザ・駅弁 メチャうまか編ザ・駅弁 中国に四国、まっことうまいぜよ編(双葉社)である。

ザ・駅弁

どちらも、『駅弁ひとり旅』(はやせ淳 作画 櫻井寛 監修)と『ボクの駅弁漂流記』(前川つかさ)のセットになっている。つまり駅弁マンガを集めましたという体裁の本だ。コミックス未収録分はザ・駅弁 中国に四国、まっことうまいぜよ編に収録されている。

駅弁ひとり旅は至極まっとうな駅弁マンガである。弁当屋を営む男が旅先で知り合った女性や子供と一緒に列車旅をしながら駅弁を食べまくり、紹介しまくる。基本的に主体は駅弁であり、各地方の話は実のところあまりない。だが私の実家のある宇和島も早々に出てきたりして、へーと思った。残念ながら宇和島にはまともな駅弁はないのだが。本の冒頭には駅弁写真を収録したカラー口絵もついている。

さて主題である『ボクの駅弁漂流記』(前川つかさ)のほうだが、こちらはというと、例によってタイトルに偽りありで、駅弁はほとんど出てこない。第一話には新宿駅で幕の内弁当を買うシーンがあり、最後の2話には「峠の釜飯」と小諸の「藤村の一膳めし」が出てくるものの、駅弁はほとんどそのくらい。特に駅弁に愛がある気配はまったくなく、単に主人公は旅行して普通の人々たちとふれあっているだけだ。

旅情というか旅愁はかきたてられるタイプのマンガではあるものの、どうしてこの1990年に描かれたマンガを、2007年に刊行された「ザ・駅弁」というコンビニコミックスのなかに敢えて入れたのか、不思議になるようなマンガである。まあ、それでも入れたところに編集者の個人的な好みというか、気持ちのようなものがすけてみえて、それはそれでまた興味深いのだが。

さて設定では主人公は「沢野洋介 26歳 旅のエッセイスト 某雑誌のかたすみの小さなコラムを連載している」となっている。フリーランスの旅行ライターという設定らしい。この主人公が旅の途上で「日常の何でもないこと」に出会う。そして少し心を動かされる……。まあ、実のところこんな感じの旅行エッセイってあるよね、といった風のマンガだ。

ボクの駅弁漂流記第一話

ボクの駅弁漂流記 第一話 冒頭

話は、例によって例のごとくで、何も起きない。信州では出会った社長と蕎麦と風呂につきあい、岩国では知人が開いていたはずのコーヒー店跡地で缶コーヒーを飲む。冬の日本海で漁師の話を聞き、電車で乗り合わせた小僧におにぎりを譲ってやる。バス停で雨宿りしながらばあさんと孫娘と談笑し、祭り囃子に誘われて投宿した旅館の娘さんと盆踊りを踊る。知らぬ街の名画座に入り、東京に戻って来て旅の喧噪が恋しくなると築地に出かけて馴染みと出会う。

旅先の話とはいっても、散髪したり、草野球に参加したり、禿げ山で遊んだりと、特に旅先でやらなくていいような話も多い。なかには単に銭湯に入っただけの話もある。あちこちの街で野球小僧と出会う話が多いのは、著者の好みなのだろう。

『大東京ビンボー生活マニュアル』の最後に、主人公コースケは旅に出てしまう(出されてしまう)のだが、長年『大東京ビンボー生活マニュアル』を読んでいた読者の一人としては、彼の旅の途上ってたぶんこんな感じだろうなと思わされてしまう。主人公の風体は多少違うのだが(ヨースケのほうがコースケよりも少し細い)、ほとんど同じ話だ。

ちなみに、主人公は酒に弱く、主人公の友人としてアフリカ帰りの人類学者や、でかい犬、大飯食らいの子、渡し船も出てくる。青春の思い出を抱くオジサンも上京してくる。このへんのモチーフはよく前川氏のマンガに登場する。尾道で出会ったわけありっぽい男女も気になる。

アフリカ帰りの人類学者の友人

アフリカ帰りの人類学者の友人

上巻巻末には「あとがきというよりボクの旅 夢想日記」という絵と文章が添えられており、このようにしめくくられている。

ボクの数少ない旅の思い出をたぐってみると浮かんでくるのは名所旧跡ではなく どこにでもありそうな街のにおいであり人々が暮らす風景である。では旅など行かなくていいではないか、というと そうではない。それでも行きたくなるのが旅であり心はいつも旅を夢見ている。

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